堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 サニエラの報告はまだ続く。
「先日の窃盗団の密売摘発の件ですが、あれもエレオノ―ラ嬢の潜入調査のおかげであるという報告を受けておりますが、その報告をしたのも諜報部長のダニエル・フランシア、つまりエレオノ―ラ嬢の兄であるため、あの摘発任務の功労者でありながらも、あの場にいた誰もが彼女の素顔は見ていない、ということになります」

 サニエラの話を聞きながら、ジルベルトは自分の左手をじっと見つめてしまった。ふいに触れてしまったあの感触が、今でも思い出すことができる。とても柔らかかった。ぐっと、その手を力強く握りしめる。

「つまり、誰もエレオノ―ラ嬢の素顔は知らない、と?」

「そのようですね。まあ、任務が特殊であるが故、その素顔を晒さないのでしょう。我々も、先日の窃盗団摘発で一緒に任務をこなしたはずですが、少なくとも私はエレオノ―ラ嬢に気付いておりません。実は、本当にあそこにいたのか、と疑っている者の一人です」

 だが、ジルベルトはあそこに確かにエレオノ―ラがいたことを知っている。あの酒場の男性店員に扮していた娘、それがエレオノ―ラ嬢だった。見た目は間違いなく男性店員。いくつか言葉を交わしたが、声も男性店員。
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