堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 そこでエレオノーラは両手で顔を覆った。それは今、発した言葉が恥ずかしいわけではなく、本当にジルベルトに会いたくて、寂しいという思いで。

「まあ」

 大げさに驚いてみせる義母。彼女は、エレオノーラがジルベルトをこうやって思ってくれていることが非常に嬉しいのだ。だが、彼女の寂しい気持ちもわからなくはない。

「それにお義母さま。私たち、いつになったら結婚式を挙げられるのでしょうか?」
 そこで顔を上げるエレオノーラ。彼女の顔は、ぷーっと頬が膨らんでいる。彼女の不安もわからなくはない。泣きそうになったり、怒りそうになったり、感情豊かで面白い娘であることは、義母も気付いていた。その感情が豊かに表現されているのも、全てはジルベルトのせいなのだが。

「そうよねぇ」
 義母はゆっくりと口元にカップを運んだ。それを一口含む。
「せめて、私が生きているうちにあなたたちの結婚式を挙げてもらえると嬉しいのだけれど」
 カップを手にしたまま言った。エレオノーラとジルベルトは十以上も年が離れている。つまり義母もそれなりの年齢、ということで放たれたその一言。
 冗談なのか本気なのかわからないようなその言葉。

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