堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ああ、母上。いらしたのですね」
 エレオノーラを抱きしめながら、そのようなことを口にするジルベルト。視線だけを母親に向けている。

「ええ、いましたよ。あなたが来るずいぶんと前からエレンと一緒にね。そう、彼女がこの屋敷で暮らし始めてからというもの、一日の大半は彼女と一緒にいますけどね」

 なぜかこの義母、どうだ、と胸を張って自慢している。何を息子に張り合おうとしているのか。それとも息子を煽っているのか。

「でしたら今は、エレンは私が連れて行っても問題はありませんね」
 さらに彼女を抱く腕に力を入れる。これは誰にも渡さないぞ、という意思の表れ。

「いいえ、私との話が終わっておりません」
 話しの途中であることは事実。だけど、息子が面白いので煽り続ける義母。

「一日の大半を彼女と過ごしているあなたなのですから、少しくらいは私に譲ってくださってもよろしいのでは? こちらは一月ぶりに会えたのです」
 そう、本当に一月ぶり。それはエレオノーラも口にしていたから事実。

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