堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「あの、ジル様……」
 そこでエレオノーラは口を挟んだ。
「苦しいです」

 その一言でジルベルトはぱっと両手を離した。
「すまん。つい」
 つい、腕に力が入ってしまった、ということを言いたかったようだ。エレオノーラを誰にも渡したくなくて、つい、と。

「いえ。その、嬉しいのは嬉しいですから」
 右手の人差し指を口元に当て、えへへと照れながら笑うエレオノーラ。
 この仕草も可愛らしくて、また抱きしめたくなる衝動に駆られるジルベルト。

「まったく、少しお茶でも飲んで落ち着いたらどうなの?」

 侍女は状況を察し、さっとお茶を淹れる。ジルベルトはエレオノーラを座らせ、自分はその隣に座った。隙間なくぴったりと寄り添って。この隙間を狙う者は、蟻一匹許さないという、そのような意思を感じる。

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