堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ジル様。お仕事がお忙しいのですよね。その、グリフィン公爵の件で」
 彼に聞きたいことはたくさんあるのだけれど、何を聞いたらいいかはわからない。

「そうだな」

「ジル様」
 名前を呼んでみる。

「そうだな」

「ジル様。私の話を聞いておりますか?」
 隣のジルベルトの様子がおかしい。だって、エレオノーラの方をけして見ようとはしないのだから。腕を組んで、目の前のどこか一点をじっと見つめている。

「そうだな」

「つまり、聞いていないってことですね。もう、いいです」
 エレオノーラがすっと立ち上がると、ジルベルトは事に気付いたらしい。思わず彼女の左手を掴んでしまった。そして、その手を引っ張るとエレオノーラはジルベルトの胸元に倒れ込む形となった。

「きゃっ、ジル様」
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