堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「朝食をいただいて、お義母さまからいろいろと教えていただいたり、こちらのことを勉強したりしております。それから昼食の前にも少しだけ稽古をしまして」

「稽古?」
 また、稽古という気になる単語が出てきた。

「はい、たまにお義父さまも付き合ってくださいますので」

「そうか」
 ジルベルトはエレオノーラの稽古姿を見たことがない。しかもそれに父親が付き合っているとなると、得体の知れない黒いもやっとした感情が腹の底から沸き起こってくる。
 なんとも言えない感情。
 しかも母親だけでなく、父親とも仲良くしているということは、嬉しい反面、羨ましい反面。その羨ましいという感情はもちろん自分の両親に対して。

「お昼ご飯をいただいたら、翻訳の仕事だったり、お義母さまと一緒に刺繍をしたりとか。そのような感じで過ごしております。お義母さまもお義父さまも、とても良くしてくださっています」

「そうか」
 両親とうまくやってくれていること、それはジルベルトにとっての安心材料の一つ。

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