堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「報告書はこちらに」
 サニエラは、数枚の用紙をパサリという乾いた音と共に執務席の上に置いた。

「ああ、ありがとう」
 言い、ジルベルトはその数枚の用紙を手にした。今、報告を受けたばかりだというのにその用紙に目を通す。まるで彼女の全てを知り尽くしたい、と思うかのように。

 サニエラの視線が刺さる。だが彼は、
「それでは、失礼します」
 と事務的に声をかけた。
 団長室を出て行こうとするサニエラは、背中から「エレオノーラ嬢は、花は好きだろうか」というジルベルトの呟きが聞こえた、ような気がした。
 サニエラが御礼は受け取らないだろうと言ったばかりなのに、ジルベルトはその御礼を考えているような気がする。だから、ジルベルトのその呟きに、彼は気付かない振りをした。
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