堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ただ……」

「ただ?」

「やはり、ジル様にお会いできないのが寂しいのです。最近は、私の方の任務も無く、自宅待機ですし」

 エレオノーラが自宅待機になっているのは、例の退団願い騒ぎがあってから、少し休ませるべきではないかという第零騎士団団長の心遣いでもあるのだが、それが少し裏目に出ているようだ。

「まあ、第零のほうも混乱しているようだしな」
 自分に会えなくて寂しいと言ってくれた妻。その言葉が嬉しくて心の中がズキンと弾んだのだけれど、それを表情に表すことはしない。

「でも、その中でよく、ジル様は三日もお休みが取れましたね」
 エレオノーラはにっこりと笑って言う。その笑みは、本当によかった、嬉しいという思いを表しているのだが。

「うん、まあ。そうだな」
 と、彼が言葉を濁した意味を、エレオノーラは後から知ることになる。

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