堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

「はい？」
　エレオノーラは何を言われているのかがわからなかった。

「鏡で確認しておけ」
　と言われたので、手鏡で確認したら、首元に鬱血痕がある。
　エレオノーラはそこを手で押さえた。もしかしたら、義母にも気づかれていたのかもしれない。いや、間違いなく気付かれている。

「結婚したから特に問題はないのだが。リガウン団長にはオレから注意しておく。潜入調査に支障が出るような場所にはしないように、と」

「なんかそれ、ものすごく恥ずかしいのですが」
　相手が兄だから、まだいい。これを血縁関係のないショーンあたりに指摘されたら、穴があったら入りたい気分。

「だったら、自分で伝えるか？」

　そんなことを彼に言ったら、「見えない場所なら問題はないのだな」とか言われそうな気がする。そしてその後の展開がなんとなく予想がつくため、できることなら自分からは口にしたくない話題。

「いえ、ダニエル部長からお願いします」

　エレオノーラは変装用のメイクセットで、ダニエルから指摘されたものを消した。