堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 エレオノーラは押し倒されているため起き上がることはできない。顔だけをゆっくりと傾け、上官に助けを求める。
 ダニエルは見てはいけないものを見てしまった、という表情をしていた。そしてわざとらしく咳払いをしてから。
「リガウン団長、できれば私の部下を解放していただけると非常に助かります」

 その声に驚いたのか、ジルベルトの左手がもみっと動いた。無意識なのか、わざとなのか、問いただしたいところ。
 だが、彼も顔だけをダニエルに向けると、その手をどけてエレオノーラを解放した。

「レオン、悪いが三階の東階段から仕掛けてくれ。行けるか? 残りは第一が押さえているようだ」
 ダニエルも冷静にエレオノーラに命令をくだす。

「承知いたしました」
 今まで押し倒されていましたという事実が無かったかのように、さっきの事故も無かったかのように、エレオノーラはすぐにその命令に従う。ただ、少し乱れてしまった衣服を直す。それが終わると、さっと駆け出した。
 そしてすぐに彼女の後ろ姿は見えなくなる。

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