堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「え。そうなんですか。大人っぽいですね。あれ? でも団長が今年三十二くらいだったから、犯罪じゃないですかっ」
 犯罪って、どういう意味だろう、と心の中で首を傾けるエレオノーラ。
「あれ、もしかしてセレナさんも?」

「はい、十八です」
 エレオノーラはニッコリと笑って、眼鏡を右手の人差し指で押し上げた。

「え、え、えー? 十八なんですか?」
 ジャックの驚き方はどんな意味があるのか。十八ではよくないのか。むしろ、二十二歳くらいの設定にしておくべきだったか。
「ちなみに、セレナさんは婚約者とかいらっしゃるんですか?」

「え、と。いいえ、残念ながら」
 とエレオノーラが答えたのは失敗だったらしい。

「では、ボクなんかいかがですか? 実は、セレナさんを一目見た時から、ボクの好みど真ん中だったんですよね」
 ジャックは自分自身に自分の人差し指を向けて、どうですか、どうですかとアピールしてきている。
 わざわざそうならないように、眼鏡でいかにも女史という言葉が似合うような恰好をしてきた、エレオノーラなのだが、それがこの男の好みど真ん中だったとは。
 人の好みというものはよくわからないものだ。

 エレオノーラは、兄よ、助けてくれ、という視線を送ったが、俺はエレオノーラの兄であってセレナの兄ではない、とその目が言っていた。

 だがドミニクはこの部下があとでジルベルトからこってりと叱られるんだろうな、と思うと少し可哀そうになった。
< 303 / 528 >

この作品をシェア

pagetop