堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「あら、かわいいことを言ってくれるじゃない。でも、嬉しい」
 マリアが目を細めて笑うと、右目の下の泣きぼくろが際立つ。妖艶に見えて、どこか幼い。そのギャップの虜にもなりそうだ。

 マリアは頭を戻して、フレドリックを見つめた。フレドリックも彼女を見つめている。
 フレドリックは、グラスをテーブルの上に置くと、彼女の手をとった。その甲に唇を落とす。じっと彼女を見据えたまま。

「今日は、これで我慢するよ」

「あら、もっと、いいのよ?」
 マリアはどこか不満そうだ。何しろここはそういう店も兼ねているのだから。

「いや、いい。これ以上は僕の抑えがきかないから。あなたを大事にしたい」
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