堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「事故ですね」
 話を聞いたフレディが眼鏡を押し上げながら淡々と言葉を発した。

「事故だが、リガウン卿にとってはただの事故ではないだろう。不幸な事故だ」
 父親が嘆いた。
「あぁ、我が娘のせいで可哀そうなリガウン卿」

「お父様。そこ、可愛そうなのは私ではないのですか」
仮面を取り外したエレオノーラが言う。
「一応、初めてのちゅーだったのに」
 彼女は恥ずかしいのか悔しいのか、両手で顔を覆った。

「エレン、初めてだったのか」
 妹の告白に驚いたダニエルが腰を浮かした。
「娼館にも潜入していたから、その辺はお手の物かと思っていたのだが」
 いやいやいや兄よ、一体妹を何だと思っているのだ。

「それはそれ、これはこれ。いつか出会える未来の旦那様のために、私は純潔を守っております」
 兄三人たちは一斉に吹き出した。
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