堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 声をかけると、ゆっくりと彼女は振り返る。振り返る過程で見せるその横顔も、そして振り返った後にニコリと浮かべた笑顔も、どこか惹かれるものがあったし、あの日から忘れることができない彼女の顔でもあった。

「久しぶりね、フレディ。待ちくたびれてしまったわ」

 フレドリックは「隣、いいかな」と聞くまでもなく隣に座る。飲み物を適当に頼むと、頬杖をついてマリアを見つめた。

「マリーに会いたいと思っていた」
 フレドリックは、口だけを無表情に動かす。その目はマリアの横顔をじっと捕らえ、そこからその視線を離すようなことはしない。

「そう? 私はあなたに会いたいとは思っていなかったわ」

 フレドリックにとって彼女のそれは、意外な答えだった。

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