堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 マリアは言うと、グラスに入っているワインを一口飲んだ。芳醇な香りであるのに、なぜか喉の奥が苦く熱い。

「そうか。ということは完全な僕の片思いってことだね」
 少し寂しそうに呟く。

「片思い?」
 マリアはそのワインのグラス越しに彼を見つめた。
「あなた、他にいい()がいるのではなくて?」

 フレドリックの前に、薄い茶色の液体が置かれた。それはすでに少し汗をかき始めているようだ。それはまるでフレドリックの心の中のように汗をかいていた。氷がカランと鳴った。

「マリー。どうしてそう思うの?」
 フレドリックはグラスを手にして、そのグラス越しに彼女を見つめた。薄い茶色の液体の向こう側に、愁いを帯びた彼女の横顔が見える。一口、それを飲む。

「だって、見てしまったの。あなたが、素敵な女性と一緒にいるところを」
 マリアは視線を下に向けて、そう、彼女のそのワイングラスに向けてそう言った。
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