堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「そうだよ。そのとき、僕はどんな話をしていたかな?」
 フレドリックはいたずらっ子のように笑った。いたずらをしかけた子供のように。

「さあ? 話し声までは、聞こえなかったわ。ただ、あなたがとても楽しそうに見えただけ」
 マリアが言いかけた時、フレドリックは彼女の腰に手を回した。

「奥へ行こうか。二人きりで、静かに話をしたいから」

 マリアはその誘いを断ることはしなかった。共に、奥のボックス席へと移動する。ここは他の誰かに聞かれては困るような話をしたいときに使う場所。ちょっと、他の人と距離を取りたいときに使う場所。

「フレディ、あなた」
 席に座るなり、マリアが口を開く。
「初心だと思っていたのに、なかなか積極的なのね」

「ああ。あれ? それは君に声をかけてもらいたかったから、かな?」
 隣に座り、フレドリックはすかさず腰に手を回す。
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