堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 思わずそう聞いていた。だって自分は、こんな酒場で働いているただの店員。きらびやかな世界ではあるけれど、夢の中のきらびやかな世界の住人。パーティというのは夢の中の話ではない。現実。そのきらびやかさと華やかさが現実となる世界。

「君がいいんだ」
 フレドリックはマリアの瞳を見つめて、ニコリともせずに言った。彼女にこの真剣な想いがとどきますように、と。

「でも私。礼儀とか何も知らないわよ。だって、貴族様ではないもの」

「嘘だね」
 フレドリックは顔をマリアに向けた。
「君からは洗練された動きを感じる。それなりに教育を受けていると思うけど」

 マリアはその目を大きく開いた。
 それは、彼には知られてしまったという驚きと、そしてここから救い出してほしいという期待と。

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