堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「そろそろフレディが来るだろうから、それまで大人しく待っていてね。マリアちゃん」

 エレオノーラを連れてきた男が、一度、部屋を出ていく。ドアがパタンと乾いた音をたてて閉められた。

 エレオノーラはもぞもぞと動くと。
「気が付いた?」
 と声をかけられた。その声は凛としていた。どこか芯の通っている力強い声。
 エレオノーラは仰向けの姿勢から横向きになり、声がした方に顔を向けた。

「あなたも、フレディに騙されてきたの?」

「フレディ?」
 その名をエレオノーラは呟いた。聞いたことがある名前。それはもちろん、彼の兄の名前だから。

「あら、あなた。あのときのフレディの食事の相手ね? 仕事仲間って言っていたけれど、違うじゃないの」
 その芯の強い声の持ち主の女性はエレオノーラの心当たりのないことを口にする。フレディと食事って、あの兄はここにはいないはず。

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