堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 両足を縛られているエレオノーラはパンと跳ねて、ヘッドスプリングで立ち上がった。これもリガウン侯爵との訓練の賜物である。
 その軽い身のこなしに、マリアもポカンと口を開けるしかなかった。
 さらにエレオノーラは歯を使って手を結んでいた縄を解いた。相手も油断していたのだろう。もしくは、手首に痕を残したくないという心遣いか。思ったよりも、縛り方は緩かった。手が自由になれば足の縄を解くのは簡単だ。そして、マリアのそれにも手をのばし、四肢を自由にする。

「マリアさん。相手は三人で間違いないですか? 先ほどの男性と、そのフレディという男性と、もう一人」

「ええ。もう一人は髭面だったと思う」

「では。その三人が来るまでしばらく待ちましょう。手は、背中に回して。足首はドレスの裾で隠してください」
 そして膝を抱えた良い子のお座りの手は後ろバージョンの姿勢をとる。

「え、でも。今、逃げた方がいいのでは?」

「そうしたいのはやまやまなのですが。私たちが逃げたとしても、彼らを捕まえなければ、また新たな犠牲者が出てしまいます」

 犠牲者、とマリアは小さく呟く。
「この後、私はどうされる予定だったのかしら?」

< 356 / 528 >

この作品をシェア

pagetop