堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「お褒めにいただきまして光栄です」
 エレオノーラは両方の口の端を持ち上げて、不敵な笑みを浮かべる。そして、その顎に伸ばされていたその手を掴むと、フレドリックの顔面めがけて頭突きをする。
 突然の出来事に、フレドリックはその頭突きから避けることもできず、見事、顔面で彼女の頭を受け止めてしまった。間違いなく痛かったのだろう。彼は顔を両手で押さえた。特に鼻。

「この女。取り押さえろ」

 フレドリックが顔を押さえていうものだから、威厳もへったくれもない。それでも後ろに控えていた男どもがエレオノーラに向かってくる。
 その前に。
 エレオノーラはすっと立ち上がると、ドレスから伸びる長い足を振り回して、フレドリックの側頭部めがけて回し蹴りを入れた。ジルベルトがフランシア家の得意技かと思ってしまうほどの華麗な回し蹴り。
 ドレスの裾はふわりと舞い上がる。タイトなスカートよりも動きやすい。
 フレドリックは避けることもできず、そのまま回し蹴りを受けて横に吹っ飛んだ。エレオノーラの蹴りも威力が増しているのは、それもこれもリガウン侯爵のおかげ。

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