堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 エレオノーラの説明を聞いたドミニクは、思わず情けない声をあげてしまう。だが、その声があがってしまうのもわからなくはない。

「あの、ホワイト子爵は、狙った女性と行動を共にすることで、次のターゲットを仲間に知らせるようなので」

 つまり。
 あの仲間の男二人は、レストランで見かけたドミニクをフレドリックと勘違いし、そのときに一緒にいたエレオノーラを対象人物であると思い込んだのだ。
 この対象人物というのは、娼館や金持ちに売りつけるための女性のことを指す。
 フレドリック一味は、女性を誘拐し、その女性を高く売りつけて金儲けをしていた、ということ。

「結局。偶々あのホワイト子爵と似ていた僕が囮にされたわけだ」
 腕を組んだままドミニクはエレオノーラを見下ろした。
 この顔はいつもの温和なドミニクではない。怖い。こんな怖い兄を見たのは、いつぶりだろう。

「囮というわけではないのですが。全ては偶々の産物ということで」
 あははは、とエレオノーラは笑って誤魔化す。

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