堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

「私が命令を受けていたのは二つあります。一つ目」
　そこで右手の人差し指を立てる。
「とりあえず、ホワイト子爵に似ているドムお兄さまと目立つお店でお食事をすること。二つ目」
　続いて中指も立てる。
「怪しげな酒場に潜入すること。この二つでした」

「怪しげな酒場ってなんだよ」
　ドミニクが額を押さえて少しうなだれる。

「ホワイト子爵が利用しそうな酒場のことです。何軒かあるのですが、今回のターゲットはマリアさんであるという情報をもらっていたので、マリアさんが働いている酒場に潜入してみました」
　えっへんと、両手を腰に当て、無駄に胸を張るエレオノーラ。

「で？　客にでもなったのか？」
　目を細めて、怪しいものを見るかのように妹を見下ろすドミニク。

「いいえ。もちろん店員ですよ。怪しまれずに、ホワイト子爵に近づくことができますからね」
　店員になって、フレドリックやマリアに酒を出したり料理を出したりしていた。恐らくその二人はあの店員がエレオノーラであったことに気付いていないだろう。