堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ま、とりあえず終わったから。いいか」
 ドミニクが言う。

「そうですね。任務完了です」

「いや。まだだ」
 ジルベルトが真面目な顔でそんなことを言うものだから、エレオノーラは他にどんな任務があったのかということを思い出そうと試みた。心当たりは無い。

「ジャックの件だ」
 ジルベルトが真面目な顔で呟いた。
「ジャックは、どうやらセレナに本気らしい。私にセレナとの仲を取り持つように言ってきた」

「え、え、ええー? ジャックさんは、あんな堅物女史が好みなんですか?」
 彼女は自分でその人物を演じておきながらも、酷い言いようだ。

「そうらしい。しかも、エレン。セレナには婚約者がいないとか言ったらしいな?」
 ジルベルトの目が怒っている。それはもうどこからどう見ても怒っている。

「え、えぇ。セレナには婚約者はいない、ですよね? 私にも婚約者はおりませんし。間違っていないと思いますが」
 セレナには婚約者はいない。
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