堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 もちろんエレオノーラにも婚約者はいない。彼女にいるのは婚約者ではなく夫。

「まあ、そうではあるが」
 自分で言っておきながら少し照れてしまうジルベルトは、うぉっほんと右手で拳を作って口元に当てた。

 まったくこの夫婦は見てられない、と思ったドミニクが口を開く。
「もう、いっそのこと。ジャックさんにはセレナがレオンであったことをばらした方がいいんじゃないんですかね? 事後処理のことを考えると、その方が楽のような気がします。多分、僕たちは数日間、こっちに残らなければならないような気がするんですよね」

「え? ドムお兄さまも予言者なのですか?」
 エレオノーラは驚いて兄を見た。

「も、ってなんだ。も、って」

「いえ。ダンお兄さまも、私とジル様が結婚することを予言なさったので」
 という過去の出来事を持ち出す。
 予言者でなくても、そのくらいのことはわかるような気もするのだが、とドミニクは思ったものの口にはしない。

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