堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「えっと、この人は誰、ですかね?」
 エレオノーラが首を傾げて問うと、姿見の女性も同じように首を傾げる。

「エレオノーラね」
 彼女の両肩に手を添えた義母が満足そうにのぞき込んでくる。その顔は喜びに満たされていて、さらに何かをやり遂げたという満足感で溢れていた。

「よくお似合いです」
 パメラも満面の笑み。やはり彼女は優秀な侍女だ。
 この中で笑顔を浮かべられないのはエレオノーラだけ。鏡の中に映る自分は、自分ではない。誰だ? エレオノーラの変装術を上回るような変装術に思えてきた。
 だが、大して変装はしていない。普段の顔に制服を着て、髪型を少し変えただけのエレオノーラ。

 そこへ運良くなのか、運悪くなのか、着替えを終えたジルベルトが現れた。ジルベルトにとっては運良く、エレオノーラにとっては運悪く、が正解だろう。

「エレン。準備が終わったのであれば、話があるのだが」
 と遠慮なく近づいてくる人物がいる。それは、間違いなくエレオノーラの夫であるジルベルト。少しは遠慮して欲しいのだが。もちろん、遠慮する様子などこれっぽっちもなく、ずんずんと近づいてくる。
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