堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「えっと。リガウン侯爵家です」

「え、あのリガウン侯爵家?」
 クリスが言うと同時に、一歩下がった。そんなに驚くところなのだろうか。むしろ、エレオノーラとしてはリガウン家がこうやって知られていることにも驚きを隠せないのだが。

「あ、はい」
 ダメだったか? 本当のことを言ってはいけなかったか? フランシア家にしとけばよかったか。とエレオノーラの心の中はぐるぐるとする。

「そうか、うん。頑張ってね」
 クリスの乾いた笑みが怖かった。なんだろう、その頑張っての意味は。一体全体、リガウン公爵家にはどのような噂があるのか。少し、気になるところでもあった。

 その後、エレオノーラは演劇部の方を一時間ほど見学させてもらった。配役交換というハプニングがあったにも関わらず、それを受け入れて楽しんでいる彼らの姿は、とても前向きであると思った。
 そしてエレオノーラの心の中に強く残った人物は三人。部長のクリスとキャシー、そしてジェイミ。
 クリスは部長として部をとりまとめているだけでなく、相手の意見を聞き出す力がある。キャシーとジェイミは、もちろん演技力。まさしく、どの人物も第零に欲しい人材だ。

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