堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 少し彼女の様子を思い出すために、視線を斜め右上にあげた。役を譲った彼女はあの部でどのような立場になっただろうか。
「ああ、思い出しました。彼女は演劇の指導を担当していますよ。もともと演劇力も高い彼女だけれど、本当は指導の方をやりたかった、と言っていたそうです」

「なるほどね」
 そこまで聞いて、アレックスはカップの中の液体を口に含んだ。熱すぎもせず、冷たくもなく。喉を潤すには適度な温度である。
 あのクリスにスカウトされ、あの我儘なジェイミから役を譲り受けた留学生。アレックスの興味を引くには十分な情報量だった。

「ねえ、サイモン」
 そこでアレックスは学院新聞を半分に折って、パサリとテーブルの上に置いた。
「私もこの留学生と話がしてみたいな」

「会長?」

< 434 / 528 >

この作品をシェア

pagetop