堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「エレン、リガウン団長がいらっしゃったぞ」
 ダニエルの声に、全身に緊張が走った。緊張が走っているのはダニエルだけではない。もちろん他の二人の兄たちも。
「オレがついているから、大丈夫だ」
 ダニエルがそう言ってくれるものの、今日のエレオノーラは素顔。仮面をつけることができないためか、非常に緊張する。

「とりあえず、パターン一で行動する」
 ダニエルのそれに、ドミニクとフレディが頷いた。パターン一とは何か。エレオノーラは知らない。兄たちも緊張のあまりに壊れてしまったのではないか、と少々エレオノーラは心配になった。

 そして、素顔のエレオノーラとジルベルトは対面する。
 そんな彼がこの屋敷に足を踏み入れ、初めてエレオノーラの素顔を見た時、本当にあのときの人物とこの目の前の女性が同一人物であるのか、と疑いたくなるほどだった。
 彼の思うあのときとは、あの任務で偶然出会ったとき。そう、ちょっとした事故でちゅーしちゃって、ふくよかな胸をもみっとしてしまったあのとき。
 あのときの彼女の見た目は完全に男性だった。胸は豊かだったけど、見た目は男だった。
 だが、今目の前にいるのは可憐な少女。そう、まだ少女という表現が相応しい。
 それと同時に、心臓がぎゅっと鷲掴みされたような感覚になる。

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