堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「なるほど。だが、あれはどこからどう見ても男だな。歩き方も。だが、声はどうだろうか」

 生徒会室で言葉を交わしたとき、彼女の声はその姿に似合ったとても可愛らしい声だった。だが、どこか凛とした強さを感じた。

 彼女が舞台でその声を出す。また、客席はざわつく。

「あれは、本当に留学生か?」
 アレックスは再び隣の席のハリーに尋ねてしまった。

「ああ、そうだな。間違いなく留学生のエレンだな。彼女はクリスと共に主役を務めているはずだから」
 ハリーも再び同じような答えをしてしまった。
 わかっている、あの男性を留学生のエレンが演じていると言うことは。だが、なぜかそれが信じられないのだ。あそこにいるのは、ドラギラ騎士団のノディという男。そしてこの男から目が離せない。
 この劇の中で、男女入れ替えをうまく演じていたのは主役級の二人。この二人は仕草だけでなく声色が全然違っていた。他の脇役たちは、観客から笑いを引き出すために一役買っていた。いや、一役どころではなく四役くらい。それだけ、笑いが溢れる劇なのだ。
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