堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 だが、クライマックスに向けてその笑いも封印される。どこからか、鼻をすする音が聞こえてくる。これは不思議なもので、誰か一人が鼻をすすり始めると、次から次へとそのような人たちが増えてくる。もちろん劇の内容がそうさせている、というのもあるのだが。
 そんな涙を誘うなか、幕が下りた。それと同時に割れんばかりの拍手が起こった。座席を立ち上がる者もいる。そしてその拍手は鳴りやまない。
 再び幕が上がり、それでやっと拍手が鳴りやんだ。舞台の上には出演者、そして裏方たちも一列に並んでいた。それの中心にいるのはジェイミ。演劇指導をしたいと言いながらも、この舞台を全部取り仕切る舞台監督的な立場を担っていたのだ。
 ジェイミが何か言うと、最終学年の元演劇部部長も舞台に上がり、ジェイミから大きな花束が渡された。元部長も、今日の劇は予想外の斜め上をいくもので、後輩たちには期待しかありません、と。涙ながらに語っていた。

 これにて劇はおしまい。あとは客席のみなさんも帰るだけ。ぞろぞろと観客席からホールへと人が移動する。すでにホールには演劇部員がずらっと並んでいて、今日、この演劇を見てくれた人たちに御礼を言っていた。やはり進みが悪いのはクリスの前で、女子生徒が彼を囲んで群がっている。次にエレオノーラ。こちらも不思議なことに女子生徒。
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