堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ジェイミ。素晴らしい劇だったよ。これからも期待している」

 フレディがジェイミにそう声をかけて、その場を去った。エレオノーラはふっと、短く息を吐いた。顔見知りがいなくなったことへの安堵感。

「エレンちゃぁぁああん」
 と言って駆け寄ってきたのはドロシー。その彼女の声に驚いたのか、帰ろうとする人たちまでもがギョッと振り返る。その中にはもちろんフランシア三兄弟とジルベルトも含まれるのだが。

「エレンちゃん。あなた、もう、最高よ。私、ますますエレンちゃんのことが好きになっちゃった」
 ドロシーがエレオノーラの首元に抱き着くと、これまたキャーと言う黄色い声が上がる。

「ドロシーさん。ありがとうございます。でも、他の方もおりますからまずは落ち着いてください」
 エレオノーラは張り付いていたドロシーを引き離した。

 ジルベルトに見られたら面倒くさいなと思って、周囲を確認すると、彼はまだいた。会場から出ていなかったらしい。ジルベルトは何やらこちらをチラチラと気にしながらも、ダニエルと会話をしながらそこから遠ざかる。
 ドロシーは女性だし、多分、大丈夫だろう。というエレオノーラの考えが甘かったのは、その日、屋敷に戻ってから知らされることとなった。
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