堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「おいおい、ジル。いくら警備責任者だからといっても、そのような怖い顔をしていてはいけないな」

「これはこれは父上。今日は一段と楽しそうですね」

「素敵な女性をエスコートしているからね」

 エレオノーラには見えない火花が見えたような気がした。
 彼女はニコリと笑みを浮かべてジルベルトを見上げた。目が合った。だが、怖い。めちゃくちゃ不機嫌であることがわかる。なぜこのような顔をしているのか、エレオノーラにはまったく心当たりは無い。もしかして警備責任者だから、そうやって威厳を出そうとしているのか。

「エレンちゃーん」
 このややこしい状況で、もっと状況をややこしくしてくれる彼女の声が聞こえた。

「エレンちゃん、かわいい」
 その三歩も離れた場所から飛びついてくるのはいかがなものか。リガウン侯爵と組んでいた腕をすっとはなして、エレオノーラは受け身の姿勢をとった。彼女を抱きとめる。

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