堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「失礼ですが、リガウン団長。なぜあれを女性と?」
 ダニエルは恐る恐る尋ねた。

「ああ、すまない。触ってしまった」
 というジルベルトの答えに「どこに」と問わなくても、触って女性と気付く場所と言えば限られている。ダニエルは思わず吹き出しそうになったが、ここでも至って冷静という名の面をかぶる。

「そうでしたか。できればその事実を隠していただきたいのです。あれは私の妹ですが、諜報部の潜入班として所属しております故。本日、あれはこの酒場の男性店員です」
 ダニエルもいたって冷静に言葉を放つ。

 この建物は大きな高級酒場。ここで窃盗団が密売をしているという情報を仕入れ、ダニエルは部下であるエレオノーラを送り込んだ。エレオノーラには変装という特技がある。特技というよりはむしろ趣味ではないか、と常々思っているのだが、あのエレオノーラの変装はとにかく見破ることができない。外見もそうであるが、内面も。だから、第零騎士団諜報部の潜入班としては優秀な人材なのだ。
 そしてこの酒場に潜入していたエレオノーラが、窃盗団の密売の決行日が本日であるという情報を仕入れた。そこでその窃盗団を取り押さえるために、第一騎士団を投入した、というところである。
 窃盗団の粗方は第一騎士団のほうで拘束したようだが、肝心の親玉を取り逃がしたらしい。そこで、今、ダニエルはエレオノーラをその親玉に差し向けるために彼女を探していた。この酒場の男性店員としてのエレオノーラであれば相手も油断するだろう、という考えによるもの。

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