堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「つまり、あなたの素顔を知っているのは私だけ、ということだろうか」

「そう、なりますね?」

「そうか」
 ジルベルトは呟いた。彼女の素顔を知っているのは自分だけ。それも悪くはない。

「エレオノーラ嬢。できれば近いうちに、私の両親にも会っていただけないだろうか」

「そうなりますと、この顔ではないかもしれませんが、よろしいでしょうか」

「なぜ、その顔ではないと?」

「きっと、この顔では団長のご両親に認められないと思うのです。その、団長の婚約者として。ですから、できればご両親に嫌われない方法を教えていただけると助かります」
 その顔でも充分にジルベルトの両親は好意を示すだろう。ちょっと年齢より幼く見えるそれ。だからといって不快なものではない。愛らしい、という表現が似合う、と思った。
 だが、ジルベルトはなかなかそれを言い出せなかった。それは、エレオノーラがあまりにも真面目な顔をしてそんなことを言ったからである。
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