堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「長男か?」
 夫の呟きに、妻の口元が歪んだ。だから、父親からの助け舟は沈められるだけである。

「誤魔化さない。それで、本命は誰?」

「エレオノーラ嬢」
 とうとう、本当のことを口にしてしまったジルベルト。酒の力も助け舟も無意味であったことを、今、ここで知らされる。

 まあ、と母親が胸の前で両手を合わせた。最初からこの答えしか期待していなかったくせに、と心の中で思うのだが、それを口にするようなことはしない。それは、ジルベルトが彼女の息子だから。この母親の性格はよくわかっている。

「それで、エレオノーラ嬢にはどういったご用件かしら?」

 ジルベルトはもう一杯、酒の力を借りることにした。本当のことを言うには、これの力を借りるのが一番の近道であることを、ジルベルトは知った。なんでも酒のせいにしてしまえばいいのだ。
「できれば、結婚の申し込みを」

< 54 / 528 >

この作品をシェア

pagetop