堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「結婚を申し込むということは、お付き合いをすることにはなりませんか?」

「まあ、その辺は曖昧なので、あなたの場合はそういうことにしておきましょう。つまり、フランシア子爵邸に伺うのは、エレオノーラ嬢にお付き合いを申し込むため、ということでよろしいですね? 将来的には結婚したい、とそういうことですね?」

「はあ、まあ」
 勢いに押されて、はあ、まあを言うので精一杯。

「順番はどうであれ、あなたにもそう思える女性が現れたことは嬉しく思います。エレオノーラ嬢から良い返事がもらえたら、我が家にも連れてきなさい」

「はい」
 そろそろこの場を離れてもいいだろうか、とジルベルトは腰を浮かした。だが、母親には一つ頼みたいことがあったことを思い出した。

「母上。一つ頼みたいことがあるのですが」

「なんでしょう」

「エレオノーラ嬢は、小ぶりの花が好きなようです。そのような花を贈りたいのですが」

「わかりました。私の方で手配しておきます。当日は忘れずにそれをエレオノーラ嬢に渡すように」

「はい」
 ジルベルトはその場からやっとの思いで逃げた。
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