堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 屋敷へ入ると、ジルベルトの両親が快く迎え入れてくれた。
 エレオノーラは目の前にいるジルベルトの両親へ挨拶をする。知的に、優雅に、そして嫌われないように、と。どうやら第一印象はクリアしたようだ。
 それからジルベルトの母親に促され、談話室へと向かう。息子であるジルベルトから見たら、この母親が始終ニコニコと笑みを浮かべているのが怖いのだが。

「では、エレンは今年で十八になったところなのね。その割には、大人っぽいわね」

「ジル様に似合うような女性になりたいと思いまして」
 エレオノーラははにかみながら答えた。

「まあ、ジルのために? でも、エレン。そんなに無理して大人にならなくてもいいのよ。あなたにはあなたの良さがあるでしょうに。その気持ちだけで十分ですよ」
 恋は盲目とも言う。ジルベルトに恋するあまり、彼女本来の良さを失ってしまっては本末転倒だ。母親はそれを心配しているらしい。

「そう言っていただけて、とても嬉しいです」
 口の端をもちあげて笑みを浮かべるエレオノーラであるが、先ほどの馬車の中での笑み方ともまた違うことにジルベルトは気付いた。この隣にいるエレオノーラは二十歳過ぎた落ち着いた女性に見える。

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