堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます

10.大人の時間です(1)

「久しぶりじゃないか、マリー」
 金色の髪を撫でつけている男が、カウンターで一人グラスを傾けていた彼女を目ざとく見つけて言い寄ってきた。
「今日もステキだね、マリー」
 隣に座る。そして、少し体を寄せる。

 マリーと呼ばれた女性は、赤いドレスに赤いルージュが似合う妖艶な美女。
 そう、妖艶という言葉がここまで似合う女性もなかなかいないだろう。その赤いドレスも胸元が大きく開いて、太ももにまでスリットが入っているものだから、この男にとってはたまらない。とにかくいろいろと我慢をする必要がある。

「久しぶりね、アンディ」
 ゆっくりと瞬きながら、マリーが言う。彼にしっかりと狙われていることに気付いているのに、それから逃げるようなことはしない。むしろ、餌をばらまいているようにも見える。

「最近、姿を見せないから心配していたんだよ」
 男が酒の入ったグラスを口につけた。ゆっくりと傾ける。

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