堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ええ、知っているわ。ちょうど窃盗団たちが密売をしかけたときに、乗り込んできたらしいわね」
 マリーはゆっくりとその言葉を発した。

「ものすごくいいタイミングだ。窃盗団は一人残らず捕まったらしいな。どこから、情報が漏れたんだろうか」
 アンディは少し首を傾けた。窃盗団があの店で密売を行っている、という情報がどこから漏れたのか、それが本当に不思議だった。

「さあ、盗聴でもされていたのかしら? それともスパイがいたとか?」
 首を傾けるという幼い仕草が、意外にもマリーに似合う。
 盗聴、ということは無いだろう。そのようなことができるようなものが無いし、誰かがその場に潜んでいたとしたら、すぐにわかるような場所だ。

「スパイ、か」
 男は呟き、彼女の腰に当てていた左手を、背中に回した。

「何か、心当たりがあるの?」
 マリーは尋ねた。

「いや、無い。仮にスパイがいたとしたら、あの事件の後に姿をくらました奴がそうなんだろうな。だが、あれ以降、仲間たちには会っていないし、そういった噂も聞いていない。それよりも、せめて何か騎士団の弱みを握ることができれば、事は安全に進むと思うのだが」

「弱みねぇ」
 マリーは一口それを飲んだ。また氷がカランと鳴く。
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