堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
「ああ、明日の昼過ぎだ」
 仕方ないから、しぶしぶと答えようとしたけれど、一応淡々と答えてみた。
 しかも指定してきた時間からして、一緒に夕食をという流れになる前に、さっさと帰ろうと思った。さらに婚約者も一緒に、ということは、本当の目的は彼女だということだ。むしろ、それが狙いだろうとしかいいようがなく、心の中では盛大にツッコミを入れつつ、彼女を連れて行きたくないという気持ちにもなる。

 ああダメだ、今から気が重い。だが、彼女の予定も聞かねばならないし、むしろ彼女にも調整してもらわねばならない。相手が相手なだけに。だけど連れて行きたくない、という気持ち。

 ジルベルトは軽く息を吐いてから。
「悪いが、今日の昼食を諜報部のダニエル殿と一緒にとることができないか、調整してもらえないだろうか」

 エレオノーラを誘うには、ダニエルに連絡をいれるのが手っ取り早い。むしろ、ジルベルトが自力でこの騎士団の建物の中でエレオノーラと接触するのは難しいだろう。

「承知しました。最近、団長は諜報部がお気に入りのようですね」
 サニエラが眼鏡を押し上げた。その眼鏡の奥でサニエラの瞳がじろっと鋭くジルベルトを捕らえていた。

< 83 / 528 >

この作品をシェア

pagetop