堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 そのこぼれた笑みが、可愛らしいと思ってしまうジルベルト。だからついつい、言葉をかけてしまうジルベルト。
「何か」
 だが、出てきた言葉はそれだった。

「いえ、リガウン団長があまりにも真剣な顔をなさっていたので」
 くすくすとエレオノーラが笑みを漏らした。

「あなたは、そうやって笑っている方が、あなたらしい」

 ジルベルトの不意打ちに、エレオノーラは顔が赤く染まっていくのを感じた。しかも、ここはまだ馬車の中であるからと油断して、ジルベルトの婚約者という仮面をつけていない。
 エレオノーラは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆った。突然そのような行為をされたら、ジルベルトだって心配になる。
 何が起こったのだろうと、ジルベルトはエレオノーラの顔を覗き込んだ。と、馬車が跳ねる。恐らく、その車輪が小石か何かを踏んでしまったのだろう。
 その勢いで、なぜかすっぽりとジルベルトの腕の中に収まっているエレオノーラ。本当に運よくすっぽりと。まさしくミラクル。奇跡としか言いようがない。

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