堅物騎士団長から妻に娶りたいと迫られた変装令嬢は今日もその役を演じます
 馬車から降りると、ジルベルトの腕にエレオノーラが腕を絡めてきた。馬車の中で赤くなっていた彼女が、隣にいる彼女と同一人物であると、ジルベルトには信じられない気持ちもあった。あれだけ恥ずかしそうに顔を赤くしていた彼女は、堂々と自分の隣に立っている。
 不思議な気持ちと誇らしい気持ちと。それが混ざり合っている。

 ふと、ジルベルトは目の前の男に気付いた。

「やあ、ジル。久しぶりだね。待っていたよ」

 陽気に右手を挙げて、挨拶をする偉そうな男。

「待っていたならこんなところではなく、どうぞ謁見の間でお待ちください」

「冷たいね、ジルは。君が婚約したって言うから、待ちくたびれてここまでのこのこ来てしまったというのに」

「のこのこ出歩かないで、どうぞ謁見の間でお待ちください」
 語尾を荒げるジルベルト。彼がこのように声を荒げるのも珍しい。
 二人のやり取りを見ているエレオノーラにジルベルトは気付いた。

「陛下だ」とこっそりエレオノーラの耳元に口を寄せて囁く。

「堅苦しい挨拶は後でいいよ。では、五分後に」

 その男はそそくさと逃げていく。

「あの、本当に陛下ですか?」
 エレオノーラはジルベルトの顔を見上げ、恐る恐る尋ねた。

「間違いなく、陛下だ」

 彼女は驚きのあまり、仮面をポロリと落としそうになった。危ない、危ない。
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