花笑ふ、消え惑ふ


「お前は雲になりたいのか」


その言葉を聞いた瞬間、重い石がどっと胸の奥に落ちた気分になった。

続いて片手で顔を押さえたい衝動に駆られる。



……流が言ったのか。


芹沢さんはいやにニヤニヤとしていた。

意地が悪いという言葉はこの人のためにあるのではないかと、本気でそう思った。




「……なんだよ」

「なにも?お前の好きにしたらいい」


そして芹沢さんはなんてことないように、ぽつりとこう続けた。



「酒、飲んでるのか」

「……」



飲み過ぎるな、とか言ってくれるなよ。

それはあんたがいちばん言っちゃいけない言葉なんだから。


思いが伝わったのか、そもそも言う気がないのか。
たぶん後者だろう。


芹沢さんは酒のことをそれ以上言ってくる代わりに、ふ、と笑った。



……そんな顔で笑うような男じゃなかったろ。



あんたは。あんただけは、そんな後悔するような顔で笑うなよ。



もうここにいたくなくて、俺は今度こそ踵を返した。





「なあ」

「……」




「儂みたいにだけはなるなよ、……新八」





ぐっと拳を握りしめた。爪がくい込んで、血が出てしまいそうなくらい強く。


いっそ出てくれたほうがいいのに。



自分の皮膚がぶ厚いまめだらけの手のひらが、どうしようもなく忌々しかった。


< 103 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop