花笑ふ、消え惑ふ
「お前は雲になりたいのか」
その言葉を聞いた瞬間、重い石がどっと胸の奥に落ちた気分になった。
続いて片手で顔を押さえたい衝動に駆られる。
……流が言ったのか。
芹沢さんはいやにニヤニヤとしていた。
意地が悪いという言葉はこの人のためにあるのではないかと、本気でそう思った。
「……なんだよ」
「なにも?お前の好きにしたらいい」
そして芹沢さんはなんてことないように、ぽつりとこう続けた。
「酒、飲んでるのか」
「……」
飲み過ぎるな、とか言ってくれるなよ。
それはあんたがいちばん言っちゃいけない言葉なんだから。
思いが伝わったのか、そもそも言う気がないのか。
たぶん後者だろう。
芹沢さんは酒のことをそれ以上言ってくる代わりに、ふ、と笑った。
……そんな顔で笑うような男じゃなかったろ。
あんたは。あんただけは、そんな後悔するような顔で笑うなよ。
もうここにいたくなくて、俺は今度こそ踵を返した。
「なあ」
「……」
「儂みたいにだけはなるなよ、……新八」
ぐっと拳を握りしめた。爪がくい込んで、血が出てしまいそうなくらい強く。
いっそ出てくれたほうがいいのに。
自分の皮膚がぶ厚いまめだらけの手のひらが、どうしようもなく忌々しかった。