花笑ふ、消え惑ふ
「……いや、いいよ」
振りかえらずに竹刀を振りおろした。
いつもなら気持ちの良い風を切る音も、いまはすこしも心を晴らしてくれない。
むしろ振るたびに心に蓄積していくものを感じた。
「でも、昼間も稽古に出てませんよね?」
後ろにいるその男の声は静かだった。
嵐の前の静けさみたいだと思った。
こういう空気にしているのはそいつか、
それとも俺か。
「これじゃあ、腕がなまっても文句は言えませんよ」
「いーから。俺のことはほっといてくれよ」
ぐっと竹刀の柄を握りしめて、感情を爆発させないように頭に上りかけた血を収める。
これ以上ことを荒立てないように。
なるべく軽い調子に聞こえるように、穏やかな声色を心がけた。
けど、そんなことは関係ないらしい。
「そんなにぼくに負けるのが怖いんですか」
ずっと前から言いたかったことなのか、その台詞は妙にはっきりとして聞こえた。