花笑ふ、消え惑ふ
「なんだって?」
「腑抜けた呑兵衛が……そりゃあぼくに勝てるわけないですよねって言ったんですよ」
「俺を怒らそうってか?悪ぃが、そんな安い挑発には乗らねーよ」
逆上せてどうする、と思う。
こいつの言っていることはすべて当たっているのだから。
それに俺は稽古をサボっている身だ。
こいつの負担も相当だろう。
怒る権利がある。
そんな回りくどい言い方をしなくても、不満をぶつければいいのに。
「芹沢さんの二の舞を演じるおつもりですか?」
「…………は」
振り返ると、俺よりも三つ年下のそいつがこちらをまっすぐ見据えていた。
どこか意地になっているようなその姿は、めずらしかった。
めずらしかったが、それをからかう余裕はなかった。
こいつには怒る権利もあるし、俺のことならべつになんと言ってくれてもいい。
反応したら敗けだとわかっていた。
だけど────
なんでだよ。
なんであの人も、お前も。
「やめたほうがいいですよ。
だって…、だってあの人は──────」
ぷつり、とどこかが切れた音がした。
掴みかかった俺をそいつは避けることなく、真正面から受け止めた。
いつものお前ならひらりと躱すだろうに。
この男は、そうしなかった。
「てめぇに芹沢さんのなにが分かる──────総司!!」
振り上げた拳を、総司は睨みつけるようにじっと見つめていた。