花笑ふ、消え惑ふ
私ノ闘争ヲ不許
*
夕飯の支度をしていた流が道場に着いたとき、すでにそこは多くの野次馬で溢れかえっていた。
「ええいお前ら戻らんか!見世物じゃねえぞ!」
声を荒げているのは井上源三郎という男だった。
三十路の近藤より五つ上の井上は、六番隊の組長であり、幹部の中でも最年長。
そんな井上が顔を真っ赤にしながら人払いをしているなか、同じく幹部の藤堂平助も声を張り上げていた。
「新さん!総司!お前ら、やめろって!なにがあったんだよ!!」
道場の中心にいるのは……
取っ組み合っているのは、総司と永倉だった。
竹刀や木刀を持っていないふたりが稽古中ではないことは誰の目から見ても明らかだった。
見物している隊士たちはどこか心配そうに、だけどどこか興奮しているようにも見えた。
幹部級の争いなど、ほとんどないのだ。
ひそひそ、初めは小さかったざわめきが、どんどん大きくなっていく。
やれ、そこだ、いけ!
けしかけるような隊士たちの間を縫って、流は前に進んでいく。