花笑ふ、消え惑ふ
「ぶぇっくしょい!」
懇々と眠りこけていた流を起こすのに、それは充分すぎるくしゃみだった。
一気に吹き飛んだ眠気と共にぱちりと目をあけると、布団のそばに座っていた男がちり紙で鼻をかんでいるところで。
「あ、ごめんねー起こしちった?」
「え、あの……」
流の顔を覗きこむその男に見覚えはなかった。
屯所でも見かけたことのない顔だ。
流は身体を起こそうとして、
「う…っ、いた……」
ずきん、と痛む頭を抱えこむように押さえる。
「だめだめ。ナガレちゃん、パチ男に横っ面殴られて脳震盪起こしたんだよ。ていうかおれもあの場にいたんだけどさ、よく飛びだしてったよね。命知らずというか、あんなの死にに行くようなもんだよ。わかってる?飛んで火に入る夏の虫なわけ」
「え……、ん?」
独楽のようによく回る舌に覚えがあった。
「もしかして山崎さん……?」
顔が違う。声も違う。
だけど流の前にいる男は山崎丞ではないか。