花笑ふ、消え惑ふ
なんとなくそうではないかと結論づけた流に、見計らったように山崎が立ちあがる。
「さ、もうゆっくりしな。今日は誰もこの部屋に来ないように手配してるから」
そして入口のほうに歩いていったかと思えば、ふすまを開く。
そこには白い湯気の立つ夕餉が置かれていた。
膳に載ったそれを、山崎が流のもとに運んでくれる。
「今日は余計な手が加わってないから美味いはずだよ」
「……それ、わたしのことですね」
「ははは、お大事に」
ふっ、と一瞬だけ風がゆらぐ。
膳から顔をあげたときにはもう、どこにも山崎の姿はなかった。
「……忍者、とか?」
それもあながち間違いではないかもしれない。
余計な手が加わっていない夕餉はたしかに美味しかったが。
「静かだなぁ……」
なぜだろう。
久しぶりにひとりで食べるご飯は、噛むたびに味を無くしていくように感じた。