花笑ふ、消え惑ふ
そのとき、
立て付けの悪いふすまが音を立てて開いた。
入ってきた人物を見て、流はびっくりする。
「土方さん」
どうして?という顔をしていた流に、土方はあっけらかんとした視線を向けた。
「ここは俺の部屋でもあるが?」
「そうでした……」
言われてみればもう夜も遅い。
思ったよりも長い間、物思いに耽っていたらしい。
寝転がったままであることが忍びなく、流はよいしょと起きあがった。
「いい。寝とけ」
「でも……」
きろりと睨まれた流は、小さくなりながらそろそろと布団に潜る。
控えめに見上げると土方と視線がかち合った。
あわてて逸らすと、上空からため息が落ちてくる。
「痛むか?」
しゃがんだ土方が、流の髪にさらりと触れる。
女慣れしている手つきであることに流はすぐに気づいた。
伊達に10年も遊郭で働いていない。
触れられることに慣れているはずの流でも、土方に触れられたらなんだかどぎまぎしてしまう。
・ ・ ・ ・ ・ ・
それがなぜなのか。どういう感情なのか。
このときの流はよくわかっていなかった。