花笑ふ、消え惑ふ
「……いや、いい。もういい」
ほんのすこしだが芹沢の声に穏やかさが混じったことに店主も気がついたのだろう。
先ほどとは違って、うすくほほ笑んでいる芹沢の顔を見てほっとしかけたが────
「それがそちらのもてなしというのならば、こちらにも相応の対処が必要となるのは心得ておるな」
────詫びろ。
「……っ、この通り…です、申し訳ありません…!」
店主は地面に膝をつき、頭をこすりつけた。
カタカタと震えている様子ほど痛ましいものはない。
芹沢はそんな店主を冷ややかに見下ろし、自分の懐に手を入れた。
「ああ…違う、違う。儂は死んで詫びろと言ったのだ」
「……!!」
芹沢が取り出したのは鉄扇だった。こんなもので殴られでもしたら、ひとたまりもないだろう。
店主の怯えきった目には怒りに狂った芹沢の姿が映りこんでいた。
芹沢が鉄扇を振り上げる。
周りから小さな悲鳴が上がった。
誰かが息を呑む音がする。
「芹沢さん」
流が芹沢の腕をつかんだ。
迷いない手つきだった。